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平成23年 (2011年) 6月 17日

政策企画課

政経懇話会知事講演[平成16年(2004年)5月27日(山口市)]

「鳥インフルエンザからの教訓」

 皆さんこんばんは。本日は政経懇話会において、こうしてお話をする機会を与えていただきまして本当にありがとうございます。政経懇話会の皆様方には、平素から県政の推進につきまして、格別のご支援、ご協力をいただいていることに対しまして、まず心から厚く、お礼を申し上げます。

 今日は、どういうお話をしようかと迷っておりました。鳥インフルエンザのお話、そう言うと、もうだいぶ前に終わった話で、どうして今さらそんな話をするのかと思われるかもしれませんが、県の対応ということで言いますと、終息宣言から3ケ月を経過したついこの5月19日に、国のマニュアルに基づく監視期間が終了し、一連の防疫措置がすべて完了しました。ですから、私としては、この鳥インフルエンザ問題を総括する意味で、少しお話をさせていただきたいと思います。


 ご承知のように鳥インフルエンザは、我が国では79年ぶりに、1月12日、阿東町の養鶏農場で発生しました。県としては、直ちに家畜伝染病予防法の規定に基づき、発生農場に対して防疫対策を開始しますと同時に、発生農場から周辺30㎞の範囲内の養鶏農家、養鶏農場に対し、卵やブロイラー等の出荷制限、移動制限等の措置を講じました。

 山口県では昨年3月に、このような事態にどう対応したらいいのかという「危機管理マニュアル」というのを作っておりました。最近、SARSとか、O-157など起きていましたから、そのような予期しないような出来事が発生したときに、県の、どの組織が、どういう役割分担の下で、どのように対応したらいいのかというマニュアルです。また、国の方でも、農林水産省が昨年9月に、我が国で鳥インフルエンザが発生した場合の、防疫対策の手順などについて定めたマニュアルを作っていました。したがいまして、こうしたマニュアルに沿って、農林部の獣医や畜産の技術職員など、まさに専門集団が中心になって、冷静に、スピーディに、かつ、きめ細かく対応してくれました。

 あの発生農場には3万5千羽ぐらい鶏がいまして、約半数はインフルエンザにかかって死にました。残りの1万数千羽については、生きた鶏を、県職員が殺して、すぐそばの町有地に埋めざるを得ませんでした。職員にも大変つらい思いをさせましたし、鶏にとっても本当にかわいそうな目にあわせてしまうことになったわけですが、1月21日には、発生農場の中ですべての防疫対策を終えることができました。

 私も、発生してから毎日、知事室に関係幹部職員を集めて、いろいろな打合せを行い、指示もいたしました。一番最初に私が指示しましたのは、これは全く予想していないことだから、必要な予算の計上も当然のことながらしていない、しかし、予備費はあるし、また、予備費で不足すれば補正予算を組むから、とにかく、気が付いたことはどんどんやって欲しいということでした。農林部の専門集団が中心になって対応する一方で、私は知事の役割は何なのか、この対策をスムーズに進めるため、私は何を判断したらいいのかということをずっと考え続けていました。そして、移動制限区域内の「卵を買い上げる」ということを対外的に公表することが最もこの対策をスムーズに進める方法であると思いまして、1月16日には、記者会見をしてそのことを公表しました。

 発生農場から30㎞以内の制限区域内には、卵を産ませるために飼っている鶏が約100万羽いました。鶏は1羽当たり、1日に0.8から0.9個の卵を産みますから、毎日、毎日、80万から90万個の卵が増え、あのエリアの中に貯まっていくということになります。先ほど1月21日に発生農場の防疫対策が済んだと言いましたが、鳥インフルエンザの潜伏期間は21日から28日間で、マニュアルではその潜伏期間内は終息宣言を出してはいけないということになっていました。ですから、最短でも38日間は卵の出荷や移動ができない状況が続くことが予測されていました。1日80万から90万個、卵が増えていくということは、3千何百万個の卵があのエリアの中に貯まってしまうという計算になります。したがいまして、卵の出荷はできない、それに対する国や県の支援があるかどうか分からないという状況の中で、卵を貯めておかなければならない養鶏農家の皆さんの気持ちを考えたときに、精神的にも、パニックになるかもしれない、そう考えまして、私は県の方で卵の買上げも含めて検討するということを、申し上げたのです。

 あとから聞いた話ですが、この考えを公表する日までは、県の畜産課や出先機関の方にも、養鶏農家の皆さんから毎日毎日電話があったそうですが、私が発表したことによって、そのような電話もなくなり、防疫対策に集中することができたそうです。県が卵を買い上げるということで、養鶏農家の皆さんも、安心して我々の防疫対策に協力していただくことができたようで、この効果は非常に大きいものだったと思っています。

 その後、国の方にも要請をしまして、卵の買上げの2分の1は国が応援することが決定されたわけです。そして、関係の皆さんのいろいろな努力によって、マニュアルの最短期間である2月19日にすべての対策が終わり、鳥インフルエンザの終息宣言を出すことができました。

 さて、3千何万個の卵が貯まりました。重さにして2千トン。私は、県が卵を買い上げた後はどうすればいいのだろうかと頭を悩ませました。まさか、県庁の職員で全部食べるわけにはいきません。県には畜産試験場という研究機関もありますから、卵の有効活用について投げかけ、ピータンをつくってみたり、あるいは、肥料にできないかということも検討したりもいたしましたが、窒素が非常に多くて、肥料としては使えないし、ピータンも柔らかすぎてどうもうまくいきません。結局、2千トンの卵のうち、卵の賞味期限内である2週間以内のものは、ケーキやマヨネーズに使ったりするための液卵という形で、安くはなりましたが、業者に引き取っていただいて対応するということになりました。しかし、賞味期限を超えたものは、実験もなかなかうまくいかなかったので燃やさざるを得なくなってしまいました。5月末ぐらいまで燃やさないといけないと聞いていますから、今もまだ燃やしているのではないかと思いますが、市町村のゴミ焼却施設を無料で貸していただいて、卵が、残念ながらごみとして焼かれているという状況にあります。


 私は、かつて国の消防大学校で、教務部長兼教授というのをやっており、また、総務部長時代は、消防防災課を所管し、台風や災害の対応について、今思うと、失敗したこともありました。しかし、その失敗で私も危機管理はどうあるべきかということを勉強いたしました。危機管理の問題が起きると、よくテレビに出られている佐々淳行(さっさあつゆき)さんという方がいます。この方は、警察庁出身で防衛施設庁長官をされていましたが、「危機管理のノウハウ」など危機管理関係の本をかなり出しておられまして、そういった危機管理の本を読みながら、私なりにかなり勉強もしてきました。佐々さんは、「悲観的に準備をし、楽観的に実施せよ」、これが危機管理の要諦であるとおっしゃっています。何か起きるかわからないが、そのときにはこのように対応しようというのを事前に準備をする、先ほど言いましたマニュアルもそうですが、悲観的にものごとを準備しておいて、起きたときには、楽観的に実施する。楽観的というのは、ある目的に向かって、集中的に邁進して取り組めるような体制をつくって、それに向かって努力するということです。

 私は、今回の鳥インフルエンザへの対応は、この「悲観的に準備をし、楽観的に実施せよ」という危機管理の要諦に沿って対応できたと思っています。「なぜ知事は最初からでなかったのか」と言われることもありますが、危機管理というのは、トップが率先して出ていった方がいい場合と、今回のように、家畜伝染病という極めて専門的な分野とでは扱いが違ってくるのではないかと思います。したがって、そのときどきの状況によって、どう対応すべきかということを考えながらやっていかなければなりませんが、今振り返ってみますと、私は、今回はかなり理想的な形で対応ができたと思っています。

 これは、すべて県庁の職員がよくやったからということではなくて、いろいろな運も重なりましてこういう結果が出たのだと思います。5月12日には、ちょうど鳥インフルエンザが発生して4カ月が経ったということで、関係職員が集まって打上げをいたしました。120人の関係職員のうち60人ぐらい集まり、十数人が壇上で感想を述べました。私は、みんなかなりほっとして、はしゃいでやるのかと思いましたら、驚いたことに、しゃべる職員が「あのときこうやっていたら、もっとうまくいったのではないか」と、みな反省をしているのです。もっといばったらどうかとも思いましたが、むしろ、反省しながら、また大きくなっていこうと考えて頑張ってくれているんだなあと心強い思いがしました。今回の経験を生かして、またこういう問題が起こったときは、どういう対応をすべきか、さらに中身のあるマニュアルが出来上がっていくのではないかと思っています。皆さんの前で、うちの職員を誉めるのもどうかと思いますが、そんなことを感じています。


 鳥インフルエンザの対応を通じて、私が感じたことを何点かお話ししたいと思います。一つは、我が国の食料自給率は本当に低いということです。鳥インフルエンザも山口県だけではなくて、国内では、大分、京都、そして国外では、タイやベトナム、中国でも発生し、鶏肉は約30%海外に依存していますが、鶏肉の輸入もできなくなりました。また、アメリカでは昨年末に、BSE、狂牛病問題が起きて、何とか屋の牛丼が食べられなくなるということまで起きていました。こうしたことを考えたときに、本当に今の日本の食料自給率40%でいいのだろうかと私は思いました。先進主要国の食料自給率は、イギリスが61%、ドイツが99%、フランスが121%と、非常に高い数字になっています。日本も海外で何か起きても十分対応ができるような自給率に、やはり上げていかなければならないのではないかと感じました。

 また、私は今回、養鶏農場に行きましたが、鶏たちはゲートの中で、毎日毎日500日から700日卵を産み続け、どうも役目が終わるとガラになって出ていくということでして、我々が生きていくためには必要なことですが、食についても、あまりにも大量生産、大量輸入、大量消費、大量廃棄の社会になってしまっているのではないか、このことを変えるのは大変難しいことですが、そのようなことも併せて感じたところです。

 同時に、今回の鳥インフルエンザを通じて私が思ったことは、市場に出ている卵や鶏肉は安全である、そのことは、県としても、あるいは、国もPRをし続けたわけですが、消費者の皆さんには、なかなか安心していただけなかったということです。我々は、よく「安全、安心」と言葉を続けて言いますが、安全=安心というわけにはなかなかいきませんでした。例えば、一部のスーパーで、「山口県産の卵は扱っていません」という貼り紙を出されたり、風評被害が拡大したということもあります。また、九州から関西に運ぶ卵や鶏肉を、山口県を通って陸送したら、鳥インフルエンザにかかるのではないかということで、海上輸送したという、嘘のような本当の話もあるようです。こうしたことを考えると、安全と安心とを結びつけるためには、私は、情報を共有化できることが大変大事であると考えています。最近、トレサビリティシステムといって生産物の履歴が分かるシステムがとられておりますように、生産者の顔が、消費者の立場からも見えるような形になれば、安全と安心が結びつくのではないか、そのようにも思うわけです。

 また、山口県は地理的な条件から、7割が中山間地域で農林業が行われています。この中山間地域の農林業は非常に厳しい状況にありますが、これらの産業が廃れていったときに、どうなっていくのかということを考えなければなりません。農山村で農林業が営まれることによって、私たち都市部に住んでいる者たちは、災害が防止されたり、水源を涵養してくれたり、いろいろな恩恵を受けています。私は、山口県の農林業を考えていくときに、周辺との関係を重視し、中山間地域の振興が大変大事なんだということをもう一度認識し直すことも必要ではないかと考えています。

 食料自給率の向上の面、安全と安心を結びつけるという意味、そして、自分たちの住んでいる周辺の中山間地域を守っていくという面から考えて、今進めております「地産・地消」、地域でとれたものを地域で消費をしていこうということですが、このことをさらに進め、グローバル化という影響を少しでもなくして、地域の中で支え合うシステムがつくられていく必要があるのではないかと、私は今回鳥インフルエンザの関係で特に思ったところです。

 商店街の活性化についても同じことが言えるのではないかと思います。地域の商店街が疲弊をすると、いろいろな問題が起きてくるわけですから、やはり、お互いに支え合っていくようなシステム、地元で買物をしよう、そういう運動もそれぞれの地域で展開されていますが、こうしたシステムを地域の中でつくりあげていくことがとても大事だと思ったところです。


 私は、きらら博を通じて、これからの地域づくりのキーワードは「自立・協働・循環」であるということを申し上げてきています。昨年のお話の中でもそのことは申し上げました。自分でできることはできるだけ自分でやろうという「自立」、そうは言っても、互いに個性も特性も違う、また、団体間でも違いますから、そのような個性や特性を持ち寄ることによって、新たな力をつくり上げていこうという「協働」、そして、「自立」と「協働」によって地域の中に、人、物、心の循環を起こしていこうという「循環」です。支え合うシステムというのは、ある意味、地域の中で循環を起こすシステムをつくり上げていくということにもなろうかと思っています。その例としましては、昨年も申し上げていますから、今日は詳しくはお話しいたしませんが、ごみ焼却灰をセメントに変える事業など、ごみの資源化のためのプロジェクト、また、間伐材や、本県は竹林面積が全国でも鹿児島県に次いで2番目ですから、これら森林資源をエネルギーにし、小さいかも知れませんが、産業や雇用を創造して、そのことでまた、環境や森林も守られていく、こういういい循環を起こそうという事業も今進めています。

 そして、循環という面では、これはまだ県庁内でも十分に熟してきているわけではありませんが、「地域通貨」というものをツールにする事業をもう少し考えていったらいいのではないかと思っております。現在、実験的に、この山口市内を流れている椹野川をフィールドにして「豊かな流域づくり事業」というのを進めています。山口湾では、かつてはアサリがたくさんとれていましたが、今はほとんどとれておりません。これは海が汚くなっているからで、海をきれいにするためには、やはり、上流から中流、下流と川全体をきれいにしなければならいということで、この流域活動事業の中でいろいろなボランティア活動が展開されています。川をきれいにするボランティア事業に参加された方は、「フシノ」という地域通貨がもらえて、そのフシノを協力店に持っていけば品物と交換することができ、こういう地域通貨をツールとして、地域や事業のなかで循環システムをつくり上げていこうとしています。この事業は昨年はじめたばかりで、今年度も続けております。この事業のほかにも、新聞等にも出ておりましたが美和町、ここは栗の産地ですから「マロン」という地域通貨を使って事業が行われており、それから、大島郡の大島町でも地域通貨があり、私の知っている範囲では3つの地域通貨があります。全国には、商店街の活性化のためにも、地域通貨を使っているところがあるようです。やはり、支え合うシステムをつくり上げていこうということになりますと、何かツールが必要で、その一つとして地域通貨というものを考えていくことも大事ではないかと思っておりまして、もう少し掘り下げた検討を内部でも進めているところです。


 このように地域の中で支え合うシステムをつくり上げ、地域の中に、やさしさとかぬくもりが感じられる、そういう地域にしていくことが、私は地域づくりの基本ではないかと考えています。そしてそういう基本の上に立って、私がよく言っております、「山口県らしさ」という大きな花を咲かせたいと考えています。つまり、植物に例えれば、やさしさやぬくもりは、根っこの部分で、そうした根っこを地域の中でしっかりとつくり上げる、その上に、「山口県らしさ」や「市町村合併」など、目に見える花を咲かせていく、この両方を進めていくことが私は必要であると思っています。

 市町村合併の話が出ましたので、最後に申し上げますが、現在山口県では、県の立場から言いますと、できるだけ広域的な形で市町村合併を進めてもらいたいというのがスタンスですが、来年3月には特例法の期限を迎えるという中で、一部の地域で、枠組が変更になるなどいろいろな動きが出てきてしまっているのは大変残念なことです。

 私はこういう動きを見ながら、前にもお話したことがあるかもしれませんが、東洋政治哲学の権威と言われている安岡正篤(やすおかまさひろ)さんが言われている「ものの見方の三原則」というのを思い起こします。「ものの見方の三原則」、これは、1つ目は、物事を長期的に考える、つまり、目先にとらわれないということです。2つ目は、物事を一面的にとらえない、つまり、多面的、全面的に考えるということです。そして3つ目は、枝葉末節にとらわれない、つまり、根本的に考えるということです。今回のいろいろな動きを見ていますと、「とらわれない心」というものが、はたしてどうなっているのか、その当たりが大変心配です。やはり、合併というのはその地域を良くしていくための、あくまでも手段ですから、あまり目先のことにとらわれないで、もっと中・長期的にその地域をどうしたらいいのかという視点で、ぜひ考えていただきたいと思っています。「そう言うんだったら県は表に出てもっとやれよ」という声もよく聞こえてきますが、残念ながら、市町村合併は、自主的、主体的に市町村が考えるということになっていますから、住民の皆さんとともにしっかりと考えて、合併をぜひ進めていただきたいと願っているところです。

 これからの21世紀の山口県をつくり上げていくためには、市町村の合併ということを踏まえて、県と市町村との関わりをどうしたらいいのかなど、山口県の新しいかたちづくりを進めていかなければなりません。今は、そういう大変重要な時期にさしかかっております。そういうかたちづくりを進めながら、先ほどお話ししましたような地域で支え合うシステムというものを、皆さまのご支援をいただきながら、しっかりとつくっていく努力を重ねようと思っています。


 そろそろ時間がまいりました。今日は鳥インフルエンザのお話を中心に、これからの県づくりについての私の考えを少しお話しさせていただきました。鳥インフルエンザについては、今日こうして皆様方の前で総括させていただくことができましたので、これからはもうお話するのは止めようと思います。

 ご静聴ありがとうございました。



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