[第2特集]やまぐち回帰人名録 エピソード5:家族に支えられ故郷で描く漫画 
宇部市在住 樹本ふみきよ(きもとふみきよ)(53)さん

上京して成功をつかんだ漫画家が、子どもたちの健やかな成長を願い帰郷。 多忙な生活に追われながらも、家族の笑顔に支えられ、今日もペンを走らせています。

漫画家を目指して上京

 山口県の空の玄関口、山口宇部空港のある宇部市。瀬戸内海沿岸は有数の臨海工業地帯として発展し、山間部には豊かな自然が残る。樹本ふみきよさんは、高校一年まで、その宇部市で育った。漫画家になりたいという夢をかなえるため、反対する両親を説得し、高校を退学して上京。作品「風の大地」で知られる、かざま鋭二(えいじ)氏のもとで約6年間弟子時代を過ごした後、独立した。22歳のデビュー後は、SF以外のさまざまなジャンルで商業誌に漫画を掲載した。33歳のときには当時では珍しいゴルフレッスン漫画というジャンルを開拓した。
「緻密な絵と作業、読者に分かりやすい文章、高度な理解力が要求されました。僕自身もプロゴルファーに手取り足取り教えてもらい、みっちりゴルフを学びました」

樹本ふみきよさんの漫画(1)

樹本ふみきよさんの漫画(2)

ページの多いレッスン漫画は仕上げるのに数カ月を要するときもある

 

約4年かけて体にゴルフの動きを覚えさせたというだけあって、ふみきよさんの漫画は一挙一動がとてもリアルに描かれている。
 現在、週刊誌で連載を抱え、週4、5日は漫画を描く多忙な生活を送る。残りの時間は、地元のプロゴルファー坂本義一(さかもとよしかず)さんと共同経営するゴルフショップでクラブの修理などを行っている。

仕事場兼自宅の写真

帰郷する際に建てた仕事場兼自宅。これまで手掛けた原稿や雑誌、資料、ゴルフクラブが置かれている

「ゴルフはとてもおもしろいスポーツですよ」と語るふみきよさんの写真

「ゴルフはとてもおもしろいスポーツですよ」とふみきよさん

 

良い環境で子育てをしたいと、山口県への帰郷を決意

 ふみきよさんの東京生活は約26年に及んだ。その間に出会ったのが、東京で生まれ育った妻の美穂(みほ)さんだ。
「妻には、いずれは故郷に帰ると話していました。子どもをごみごみした所で育てるのは嫌だなと思ったんです。都会では、隣人の顔も知らず挨拶もせず生活することが当たり前になっています。以前からそのことを寂しいと感じていました」とふみきよさん。
 平成5年、40歳のとき、長女の智穂(ちほ)さんの誕生を機に宇部市に帰郷することを決めた。
「地元にはゴルフ場がたくさんあるので、ゴルフざんまいだと思っていました。しかし、4、5人いたアシスタントが誰も付いて来なかったんですよ。みんな、もともと全国各地から上京してきているものですから、東京から山口県に来ることには抵抗があったようですね(笑)」とふみきよさん。

仕事の様子の写真

 

 その結果、帰郷してからは仕事に追われる日々が続き、美穂さんがアシスタント代わりとなって夫婦二人三脚で漫画を描いてきた。
「最初は、宇部と東京の間で仕事ができるか不安でしたが、すぐ近くに空港があるおかげで助かりました。航空便だと数時間後に原稿が編集部に届くので、締め切りの直前まで原稿が描けるんですよ」
 東京育ちの美穂さんは、「山口県はお米も魚も野菜も食べ物がとにかくおいしい」と、ここでの暮らしにあまり抵抗はなかったようだ。
「見て分かるように2人とも体形が変わりましたよ」と笑顔でお互いを見つめ合う。

職場体験を通した若者育成

 学生時代のふみきよさんにとって漫画家という職業は「将来の夢」だった。実際になってみると、想像していたほど簡単な仕事ではなかったものの、1番好きなことを仕事にできた喜びを感じているという。
「漫画の世界で生きることができたお返しとまでは言いませんが、自分たちを引き継いでくれる若者を育てたいと思うようになりました」とふみきよさん。
 そんな思いと経験を生かして、毎年、近隣の中学校からの依頼で職場訪問を受け入れている。生徒に実際に漫画を描いてもらい、ストーリー作りの基本などを教えているという。
 夕方になると仕事場兼自宅には、願いどおり山口の空気でのびのびと育った智穂さんと長男の大樹(ひろき)くんの、「ただいま」という声が元気よく響く。温かな家族に囲まれて、今日もふみきよさんは机に向かって、ひたすら漫画を描いている。

樹本ふみきよさんのイラスト

 

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