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逸 It's やまぐち 冬号 Vol.3
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巻頭特集/やまぐち 革新録3 山口県ブランド「フグ」の謎を探れ! 旅人/塩田丸男

冬の味覚の王者「フグ」。
山口県では福に通じるとして「フク」と呼ばれています。
その本場といえば山口県といわれていますが、なぜそう呼ばれるようになったのか。
その謎を追って、「フグほどうまいものはない」と断言する山口県生まれの作家・塩田丸男さんが、フグの代表的な漁法「フグ延縄漁」発祥の地、フグ水揚げ量日本一の市場、フグ料理店などを訪ねて旅しました。

フグ関連地図 ひと冬で30回以上もフグを食べるほどのフグ好きという作家の塩田丸男さん。その魅力にはまったのは、東京で新聞社に勤めていた昭和30年ごろのことだという。
「当時よく行ったのは大衆フグ料理店なんだけど、これがうまいフグを出す店でネ。フグの旬は冬だけど、そこは冷凍ものしか扱わない店だったから、季節を問わず、真夏でもしょっちゅう行って、ワイシャツを脱いで下着1枚になって汗だくになりながら食べたもんですよ」
 以来すっかりフグの虜となった塩田さんだが、フグ延縄漁発祥の地・周南市粭島を訪ねるのは今回が初めて。延縄は一条の縄に一定の間隔をあけて何本もの釣り糸を取り付けた漁具で、それにある独特の工夫がされた粭島生まれのフグ延縄漁は、フグの最も代表的な漁法として西日本一帯に広まっている。


塩田丸男氏

塩田丸男(しおた まるお)
1924年山口県下関市(旧豊北町)生まれ。読売新聞社出版局などを経て、著述業に。サラリーマンをテーマにしたエッセイやテレビ出演で人気に。食の分野の著作も多い。1992年、日本ジャーナリスト大賞受賞。『サンデー毎日』俳句欄選者。直木賞候補作『臆病者の空』のほか、『フグが食いたい!』『いのちの素』、妻の料理研究家でエッセイストの塩田ミチルさんとの共著『塩田さんちの腕まくり』など著書多数。東京在住。

 粭島は周防灘に突き出た半島と小さな橋で結ばれた周囲2キロほどの島で、塩田さんは地元の漁師 高松清治さんにあいさつするや、高松さんの船にヒョイと飛び移ってあっちこちキョロキョロ。
「フグ延縄の漁具ってどんなものなんですか」と尋ねる塩田さんに、高松さんは陽に灼けた顔をニッと緩ませ、おけの中の長いロープ状のものを指差した。

フグ延縄漁の漁具。近年は内海で2,000本もの針を入れても数匹しか釣れないことも。

「これがフグを取る縄でしてネ。8メートルごとに釣り針が付いているんですよ。縄一本の長さは約1.2キロ。漁場に出たら、イワシの切り身を釣り針に付け、縄を何本もつないで全長十数キロぐらい、海の底へどんどん流していくんです」
「普通の延縄と、どう違うんです?」
「普通は縄にそのまま釣り糸が付いているんですが、フグは歯が鋭いから糸や縄を切って逃げてしまう。そこで粭島の高松伊予作さんという人が、縄などに部分的にカタガネという針金を使う漁具を考案したんです」
「いつごろの話ですか」
「明治時代の話です。その後も改良を重ね、粭島の漁具はよく釣れるというんで、教えてくれと言って県内外から漁師さんが粭島によく来られたもんです」
 フグといえば、おちょぼ口に膨れっ面。ユーモラスな姿が思い浮かぶが、実は人の指もかみ切るほど歯が鋭く、それでいてストレスに弱い、デリケートな魚なのだそうだ。網でとると網の中で暴れたり他の魚に噛み付いたりして衰弱してしまうため、1匹ずつ釣り上げる延縄漁の方が生きが良く、いい値もつく。そうしたことから、粭島で生まれたフグ延縄漁はあちこちに広まっていったらしい。

ふぐ延縄の仕立て
図1/参考文献「ふぐの文化」(青木義雄著/成山堂書店)

漁場の変遷

高松さんに漁具について教わる塩田さん
「フグ延縄漁発祥の地」周南市粭島にて。高松さんは昭和50年代、唐戸市場のフグ水揚げ量で優秀な成績をおさめた。

 粭島がフグ延縄漁発祥の地となったのは、島の周辺の周防灘がフグの最高級品トラフグの好漁場だったことにある。外海(黄海・東シナ海)でもトラフグはとれるが、
「やっぱり『内海もの』の方が、おいしいでしょ」
と身を乗り出す塩田さんに、高松さんはうれしそうにうなずいて、
「粭島から大分県姫島周辺でとれるフグは内海ものと呼ばれて、特に最高級とされたもんです。この辺りの海に多いエビやシャコを食べて育つからうまいんです。でも、今じゃ海の環境が変わって、とれる期間が短くなり、幻のフグになって…」
 フグの主要な漁場は今、外海に移っている。そのきっかけは内海もののフグの激減に加えて、昭和40年(1965)の日韓漁業協定で黄海や東シナ海へ出漁できるようになったことにある。以来、日本海に臨む山口県北部、主に萩の漁師が船を大型化して船団を組んで外海へ繰り出すようになり、萩がフグ漁の最大の拠点に。漁獲されたフグは下関で水揚げされ、漁場の開拓でフグ取扱量が膨らんだ下関の唐戸市場では昭和44年(1969)、約5,000トンもの最高記録を樹立したほどだった。
 しかしその後、外海でもフグは激減。その対策として山口県では行政・漁業者・市場が一体となり、近県とも協力して内海や外海での種苗(※注1)の放流を行って資源回復に取り組み、その成果も見え始めている。

※注1/人工受精で生まれた稚魚や卵のこと。

フグ食に歴史あり

フグ
神経質なフグはフグ同士で噛みつき合うため、漁獲後にフグの前歯を3分の1ほどペンチ状のもので折る。歯の折り方次第で生きの良さに影響が出るため、「生かし」の技は重要。

 種類によって異なるが、フグは一般的に卵巣や肝臓に命にかかわる猛毒を持つ。しかし、日本ではかなり昔から食べられていて、下関市安岡の貝塚からは約2500年前のフグの骨が出土している。
「フグで命を落とした人は、かなりの数に上るだろうねえ」と塩田さん。フグ食が禁じられた時代もあり、
「江戸時代、特に武士社会ではきついご法度でね。武士の命は主君に捧げるものであるから、フグを食って死ぬなんて不忠極まりないという理屈なんですよ。最も厳しかったのは長州藩(現在の山口県)で、家中の武士がフグで死んだら家禄没収、家名断絶。でも、一部の維新の志士たちは結構食べていたらしい。昔から多くの人間がフグに魅せられてきたのは毒性があるからこそ、というのが僕の持論でネ。危ないと分かっていて惹かれる悪女の魅力ですヨ」
と塩田さんはニヤリ。
 明治政府もフグ禁食令を出したが、それが初めて解かれた地が実は山口県。長州出身の初代内閣総理大臣・伊藤博文が下関の料亭でそれとは知らされずに食べ、そのうまさに感激し、山口県令(現在の知事)に命じて明治21年(1888)、山口県だけに解禁させたといわれている。
 好漁場が近く、フグ食の長い歴史がある地ゆえに有毒部分を取り除く安全な「身欠き(※注2)」の技をはじめ調理法が磨かれ、当時「大陸への窓口」として賑わっていた国際都市・下関を訪れた政財界人がフグを堪能して絶賛。それが「フグの本場は山口県」という評判を全国に広める大きなきっかけになったのである。

※注2/身欠きは、内臓を取り除いた状態のこと。山口県をはじめ全国19都道府県が、肝臓や卵巣などの内臓の調理販売をフグ条例で禁止している(フグの種類によって食用可否が異なる)。ただし精巣(白子)は別。

日本一のフグ市場

袋セリの様子
「日本一のフグ市場」の南風泊市場。

 フグを生きのいい活魚のまま水揚げさせる漁師の「生かし」の技。高い専門性が求められる身欠きの技。そうした長い歴史の中で培われた高度な技に加えて、全国のフグの約80%が水揚げされる日本一のフグ市場、下関市彦島にある「南風泊市場」の設置も、フグは山口県といわれるようになった大きなカギを握っている。
 その南風泊市場の開設は昭和49年(1974)のことで、実は危機感の中での誕生だった。というのは、それまでの水揚げ港だった唐戸市場は往来の激しい関門海峡に面し、大型化した漁船の接岸には危険が多く、入港を敬遠する船が続出し始めていたからだった。そこで起死回生を賭けて響灘に臨む彦島へ、フグを取り扱う機能を移転。港の設備を充実させ、身欠きの処理をして急速冷凍できる仲卸団地も併設。水揚げから流通までフグ専門の機能が集積された南風泊市場へ、全国各地のフグ漁船が競って水揚げに来るようになり、フグは山口県というブランド・イメージが全国に広まっていったというわけである。


職人の腕

塩田さん、二枚引きに挑戦!
フグ料理店で、下関の伝統的な「二枚引き」のフグ刺しづくりに初挑戦。
「初めてにしては上出来です」と料理長にほめられて「一生の自慢だネ!」と塩田さん。

 さて、フグ料理店へ到着した塩田さん。フグ刺しづくりを料理長さんから手ほどきを受ける貴重な体験を味わった後、いよいよ料理をいただくことになった。まず自ら引いたちょっと厚めのフグ刺しをかみしめると、「非常にウマイ!何しろ自分で造ったんだから格別の味だネ」とすっかりご満悦。
「僕はあんまり薄いフグ刺しより、かめばかむほど味が出る厚めのフグ刺しでもいいと思うんだけど、ご主人、フグの肉質は強靱だから薄く引くらしいね?」
 その言葉に店の主人で下関ふく連盟常任顧問を務める中尾隆之さんは、
「はい。フグの身は繊維が強く、タイやマグロの刺し身のように厚く切ると、かめないほど硬いんです。塩田さんが先ほど教わったのは、とびきり生きのいいフグが手に入る下関独特の二枚引き。新鮮なフグは水分が多く、朝さばいても夕方までに十分身が締まらず、薄く引きにくい。そこで一度引いた刺し身にさらに包丁を入れて開いて、2枚にする方法が生まれたんです」
 フグの味は繊細なため、その味を引き立てるポン酢は、各店秘伝のものがあるほど、料理店はこだわりを持つ。二枚引きにすると、そのポン酢が絡みやすくなり、フグのうま味が一層倍加するそうだ。
 一般的なのは一枚引きで、こちらは東京生まれ。身欠きフグを汽車に乗せて下関から出荷すると、東京に着いたころ、程よく身が締まっていて薄く引けた。そこで下関でも身欠きフグをさらしで包み一日寝かせてから一枚引きにする発想が生まれたという。
中尾さんは言う。「寝かすことは熟成させること。熟成されて生まれるフグのうま味には独特の甘みがあり、口の中でかんで、その甘みがきれいにフワッと出てきた時が最高なんです。ただコリコリとした歯応えだけっていうのは、あまり良くありません」
「フグの大きさによって一晩寝かし、二晩寝かしがいい、と違うらしいね」
 その言葉に中尾さんはうなずいて、
「他にも時期、保管方法などさまざまな要因によって味は違うため、どう調理すれば一番うま味を出せるか見極めるのも料理人の腕なんです」
菊盛りのフグ刺し/外側が二枚引き。内側はすべて一枚引き。 料理長の繊細な技が光る見事な菊盛りのフグ刺しに箸をのばし、何とも幸せそうな塩田さん。その目の前には、香ばしいヒレ酒、コラーゲンたっぷりの煮こごり、空揚げ、フグちり…。多彩な料理の数々は、フグならではの大きな楽しみだ。
「でも、料理の前に一番肝心なのは、実はフグの目利きなんですよ」と仲卸から小売まで手掛ける中尾さんは断言する。「一般の魚と違い、身欠きにして1匹1匹確認してからお得意さんに渡すのが、私たちフグの仲卸の仕事。注文にきちんと合わせたフグを揃えられるかどうか、仲卸にはものすごく責任があるんです」
 その言葉を聞いた塩田さん、
「南風泊でセリを見たとき、専門家はよく分かるもんだなって感心したけど、どこで見極めのかな」
「市場は、いわば競馬場のパドック。セリに並んだときのフグの姿・形・つやの第一印象がビビッとくるかどうかなんです。歴史があり、日本一フグが集まる下関だからこそ、善しあしを見極める目も磨かれるんです」


フグのうまさを知るべし!

 旅を終えた塩田さんはこう語ってくれた。「漁具や料理一つにも山口県人の改良精神を感じたね。世間にはフグをまだ食べたことがないという若い人も多いようだけど、そのうまさを知らないなんてもったいない。若いころからもっと知るべし!魚嫌いな子どもでも、癖のないフグのうまさは分かるらしく、よく食べるもの。まあ、子どもは値段のことなんて考えないからね(笑)。山口県のフグ、もっと食べて欲しいね!」

フグ刺しを前に、ご満悦の塩田氏 下関ふく連盟常任顧問 中尾隆之さん
  下関ふく連盟常任顧問
中尾隆之さん

やまぐち革新録3 スポットガイド 「フグ」ゆかりの地を巡ろう。
粭島周辺地図萩港周辺地図下関関門海峡周辺地図

フグ延縄漁発祥の地・粭島のモニュメント

1粭島(周南市)
フグ延縄漁発祥の地・粭島。本土と島を結ぶ橋を渡ってすぐのところに、粭島フグ延縄漁発祥由来碑が建つ。フグ延縄漁の確立に貢献した高松伊予作氏は、その功績によって大正11年に平和記念東京博覧会で褒賞を授与された。粭島の漁師の間では「フグはお姫さまのように扱え」という言い伝えが受け継がれ、昔からフグの「生かし」の技が優れていたという。


越ケ浜漁港
明神池

2越ケ浜(萩市)
萩市越ケ浜漁港は、県内最大の遠洋フグ延縄船団の拠点。北長門海岸国定公園の一角、笠山のふもとの砂州に位置する。周辺には観光地も多く、すぐ近くにある明神池は、潮の干満とともに水面が上下する不思議な池。かつて火山島だった笠山が本土と砂州で地続きになった際にできた池で、今も溶岩の隙間で海とつながっている。笠山には60種約25,000本ものやぶ椿が自生しており、12月から3月が開花期。


萩しーまーと

3道の駅 萩しーまーと(萩市)
萩漁港に臨む魚市場の隣にあり、抜群の鮮度を誇る魚介類の販売が評判。萩はマフグの水揚げも多く、トラフグをしのぐうまさという説もあるマフグをもっと知ってもらおうと今年初めて「萩・まふぐ祭り」が開催され、無料試食などで賑わった。来年は3月中旬開催予定。


唐戸市場

4カモンワーフ唐戸市場(下関市)
「カモンワーフ」は平成14年に誕生。「唐戸市場」と併せて関門の豊富な海の幸を楽しめる人気のスポットとなっている。セリの見学、競り落とされたばかりの新鮮な魚介類・地域のお土産品などのショッピングが楽しめるほか、フグ料理をはじめさまざまな料理も味わえる。


市立しものせき水族館「海響館」

5市立しものせき水族館「海響館」(下関市)
世界各地の約100種類ものフグを見ることができる。特に関門海峡を産卵場とする、トラフグの水槽は必見。稚魚の状態から成長した状態まで、あまり知られていないトラフグの生態を知ることができる。

■観光のお問い合わせ
 周南市商工観光課 電話:0834-22-8372
 萩市観光課 電話:0838-25-3139
 下関市観光振興課 電話:0832-31-1350

元気発信!まちづくり

下関ふくの日まつり・南風泊水産団地産業祭

「袋セリ」に挑戦する参加者

 下関では、フグのまち下関を全国に発信するとともに、高級魚といわれるフグの大衆化を図ろうと、2月9日を「ふくの日」として、毎年その日に近い祝日の建国記念日に「下関ふくの日まつり」が行われている。
 会場となる南風泊市場は普段、セリの関係者しか入れないが、この日は一般開放。フグをはじめ新鮮な魚介類などが格安で買えるほか、南風泊市場独特の「袋セリ」に素人が挑戦するフグ刺しのオークションなど、ユニークなイベントも好評。中でもフグ100キロを使ったフグ汁の大鍋は先着1,000名・無料とあって、毎年長蛇の列ができるほど。全国各地からこの日を楽しみに訪れる人も多く、フグの旬の季節、本場の魅力を楽しむ一大イベントとして定着している。

ふぐの銅像
唐戸市場の向かいにある亀山八幡宮では、2月・9月に「ふく祈願祭」「ふく祭り」が毎年行われ、市場にとって欠かせない社となっている。平成2年に市場関係者によって境内にふくの銅像が建立され、ふくのまち下関の象徴となっている。

第10回 下関ふくの日まつり
 ■とき/平成18年2月11日(祝日)
 ■ところ/南風泊市場
 ■お問い合わせ
   下関ふく連盟[下関唐戸魚市場(株)内]
   電話:0832-67-8181



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