本文
気候変動を学ぶステップアップセミナーの実施について(レポート)
本セミナーは、山口県と東京大学先端科学技術研究センター(以下「東大先端研」とする。)との新たな時代の人づくり連携協定に基づき、気候変動への理解を深め、2050年脱炭素社会、持続可能な社会に向けた新たな時代の人づくりを目的に2024年2月10日土曜日、山口県立山口図書館にてオンラインとのハイブリッド形式で開催し、180名を超える方に参加いただきました。
(主催:山口県環境政策課、山口県気候変動適応センター、共催:東大先端研、地域気象データと先端学術による戦略的社会共創拠点ClimCORE、山口県地球温暖化防止活動推進センター、山口県環境学習推進センター)。
東大先端研 中村教授 特別講演 |
東大先端研 飯田特任准教授 活動紹介 |
自然公園指導員 藤本正明氏 活動紹介 |
山口県地球温暖化防止活動推進センター 田部室長 活動紹介 |
野田学園中学・高等学校 生徒のみなさん |
パネルディスカッションの様子 |
東大先端研 中村教授 総括の様子 |
セミナーは2部制で開催され、開会あいさつとして、山口県環境政策課大堀課長から、本県の地球温暖化対策についての説明を行いました。
第1部は、東大先端研中村尚教授が、特別講演として、「顕在化する地球温暖化と最近の異常気象」と題し、講演されました。 中村教授からは、講演の中で、地球温暖化は数億年規模の長期的な気候変動もあるが、近年は人為起源の温室効果ガスの増加が温度変化に顕著に影響してること、地球温暖化は水蒸気量の増加といった温室効果を更に増加させるという正のフィードバックを起こすこと、偏西風の顕著な蛇行に地球温暖化が重なると、猛暑や豪雨などの異常災害の発生頻度が高まることなどが紹介されました。
また、気象・気候の極端現象はジェット気流の揺らぎがもたらすとされており、日本で起きた2023年の異常高温や豪雨は、日本近海の水温上昇が原因であるとされ、既に日本近海は熱帯地域と同様の水温を記録しており、水温の上昇は豪雨や勢力が強い台風の増加の原因となると考えられるといわれていること、地球温暖化の影響が、自然変動の振れ幅にも寄与して更に被害を大きくしているため、対応策として、温室効果ガスを減らす「緩和策」と影響を回避・低減する「適応策」を適切に実施していく必要があることを説明されました。
第2部は、東大先端研 飯田誠特任准教授のコーディネーターのもと、自然公園指導員 藤本正明氏、山口県地球温暖化防止活動推進センター温暖化対策室長 田部一則氏、野田学園中学・高等学校の生徒5名が登壇し、それぞれの取組が紹介されました。
東大先端研飯田特任准教授は、「地域とともに創る持続可能な社会」というテーマで、地球温暖化問題は、その規模の大きさ(世界的)と、100年後を考えるという時間軸の長さ、対策の効果が実感しにくいことを挙げ、東大先端研の取組として、地域共創リビングラボが実施している地方との連携による様々な地域課題の解決に向けた取組や、いわき市で取り組まれているエコプロフィットの実証実験を紹介されました。
自然公園指導員の藤本正明氏は、「周防大島(瀬戸内海)での海洋や陸域の変化」というテーマで、周防大島町の海域にあるニホンアワサンゴの生息地の保全活動を通じて観測された海洋環境等の変化についての説明や、豊かな海を守るためのアベマキの森づくりといった陸域での保全活動について紹介されました。
山口県地球温暖化防止活動推進センターの田部一則室長は、「地球温暖化対策における地域センターの役割」というテーマで、環境省事業による地球温暖化防止活動推進員と連携した活動や、山口県委託事業として補助事業の窓口や中小企業の省エネ化診断等の事業について紹介されました。
野田学園中学・高等学校の生徒のみなさんからは、「アースバトン~九州・山口の未来~に参加して」と題し、実際に他県の同年代の生徒との交流や海岸ごみ拾いの活動についての紹介や、意見交換の中で山口県の強みであるリサイクル率の向上についてのアクションプランを考え、ごみを減らすために校内アンケートの実施や、住んでいる地域のごみ捨てのルールを周知するWebサイト作成、校内でのごみ分別のポスター掲示などを実施した旨を説明されました。
その後のパネルディスカッションでは、飯田特任准教授のコーディネートにより、「知る(わかりづらい環境や社会の課題を知る工夫)」、「つながる(個の取組を広げるためのネットワークの形成)取組」、「実感する(活動や取組の有用性を実感、理解するためには)」、「持続性(持続的に活動を進めるために必要な要素)」の4つのテーマを踏まえながら意見交換が行われました。
知る取組として、HPや動画サイト、Web発信等や、独自の情報共有ツールにより情報を広げていることが紹介されました。また、つながる取組として、地元の高校生と保全活動に一緒に行っていること、活動を広げるファンづくりを行うこと、サポーター制度などでの情報共有、友人などへの声掛けなどが挙げられました。成果の実感として、海洋環境の回復する様子を見ることや、アンケートによる可視化などが挙げられました。
今回のパネルディスカッションでは、意見交換の内容をイラストなどによりリアルタイムにまとめる「グラフィックレコーディング」や、参加者が登壇者に対して質問を投げかけることができるリアルタイムアンケート「スグキク」を用い、参加者との双方向コミュニケーションを行いながら実施し、参加者から様々な意見が寄せられました。
パネルディスカッションのまとめとして、(株)TAM 佐藤氏から、グラフィックレコーディングでまとめられた内容が説明されました。
最後に中村教授から、総括として、気候変動問題には様々な要素があり幅広い知識が必要であること、情報を伝えることだけでなく、情報を入手するときには、その情報を精査することが重要であること、様々な取組がある中で、本当に有益な取組なのか、多角的な視点で評価することも考えることなどを語られ、セミナーを閉会しました。
本セミナー後のアンケートを実施し、119名の方から回答があり、回答者の92.5%の方が本セミナーが非常に参考になったまたは参考になったと回答されました。気候変動の影響や適応策への興味のある分野については、自然災害・沿岸域、自然生態系の分野の興味が高い結果となりました。
また、自由意見として、定期的なセミナーの開催の要望や、グラフィックレコーディングなどの運営に関するご意見、自らの活動に役に立ったというご意見、登壇者への応援メッセージなど多数寄せられました。
ご意見・ご要望につきましては、今後の本センターの運営・事業等の検討に活用させていただきます。